本文へスキップ
税理士法人ZEN
右肩上がりの折れ線グラフの一部を、虫眼鏡が拡大して見ている線画。拡大された中には細かい目盛りが見える。実績のない段階では計画の数字が細かく見られることを表している

ブログ

創業融資で見られる数字——決算書がまだない段階で、何を見せるか

小武 賢二
  • 会社設立
  • 創業融資
  • クラウド会計

会社設立の記事で、税理士に相談が来る場面のひとつとして「数字を見せる相手ができたとき」を挙げました。

創業期に、その相手として最初に現れるのはたいてい金融機関です。日本政策金融公庫の調査では、開業時に苦労したこととして「資金繰り、資金調達」を挙げた方が56.9%と最も多く、「財務・税務・法務に関する知識の不足」も36.4%で3番目に入っています。

ただ、創業融資には他の融資と決定的に違う点があります。見せるべき決算書が、まだないことです。

この記事では、決算書がない段階で何の数字を見られるのか、そしてその数字をどう作るのかを整理します。

参考: 2025年度新規開業実態調査(日本政策金融公庫総合研究所)

決算書がない段階の融資

創業期の資金調達には、大きく2つの経路があります。

  • 日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」——新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内で、いずれも据置期間は5年以内
  • 信用保証協会の「創業関連保証」——創業予定の段階から利用でき、保証限度額は3,500万円。実際に貸すのは民間の金融機関で、自治体の制度融資と組み合わせる形が多い

どちらも、通常の融資とは審査の材料が違います。事業を続けている会社への融資なら、決算書が過去の実績を語ってくれます。創業融資には、それがありません。

公庫の制度で「ご利用いただける方」に付いている注記が、この点をよく表しています。

「新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」に限ります。

実績の代わりに置かれているのが、計画とその遂行能力です。そして遂行能力の裏づけになるのが、これまでの経歴と、自分で用意した資金です。公庫の「創業計画書」も、全10項目のうち2番目が「経営者の略歴等」、8番目が「必要な資金と調達方法」、9番目が「事業の見通し(月平均)」という構成になっています。

なお、市区町村の創業塾やセミナー(認定特定創業支援等事業)を受けて証明書を取ると、公庫の特別利率の対象になります。設立前でなければ間に合わない話なので、時期には注意してください。

参考: 新規開業・スタートアップ支援資金(日本政策金融公庫) / 創業期に利用可能な信用保証制度について(経済産業省)

実際、いくら借りているのか

金額の感覚をつかむために、公庫の調査を見ておきます。

2025年度の調査では、開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円でした。「250万円未満」が20.1%、「250万〜500万円未満」が21.7%で、4割以上が500万円未満に収まっています。平均値だけを見ると実感とずれます。

調達の内訳はこうです。

調達先平均額構成比
金融機関等からの借り入れ827万円67.9%
自己資金279万円22.9%
調達額の合計1,219万円—

ひとつ注意があります。この調査の対象は公庫が融資した企業です。融資を受けずに開業した方は入っていません。「開業には平均でこれだけかかる」ではなく、「融資を受けて開業した人はこうだった」と読むほうが正確です。

そのうえで、限度額の7,200万円と実際の827万円の差は見ておく価値があります。限度額は上限であって、目安ではありません。

自己資金は「要件」ではないが、見られている

制度上の「ご利用いただける方」に、自己資金の額は入っていません。書かれているのは、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方、それだけです。

では見られないのかというと、そうではありません。調達額の22.9%が自己資金だという実態が、その答えです。

ここで実務上のポイントがひとつあります。見られているのは金額よりも、出どころだということです。

創業計画書の「必要な資金と調達方法」欄は、自己資金・親族等からの借入・公庫からの借入・他の金融機関からの借入に分けて書く形になっています。分けさせるのは、性質が違うからです。毎月の給与から少しずつ積み上げた100万円と、直前にどこかから動かしてきた100万円は、同じ100万円でも意味が違います。通帳を見れば、そこは分かります。

親族から資金を出してもらうこと自体は、何も問題ありません。それを自己資金として書いてしまうことが問題になります。

計画の数字は「当たるか」ではなく「説明できるか」

ここが本題です。

まず前提を共有しておきます。計画の数字は、当たりません。

同じ公庫の調査で、開業前に予想していた月商に対する実績の比率(予想月商達成率)を見ると、100%以上を達成したのは58.7%でした。裏を返せば、4割は予想に届いていません。見込みの半分にも満たなかった方が10.5%います。

金融機関もこれを知っています。だから計画に求められているのは、的中率ではありません。ズレたときに、どこがズレたのかを説明できる形になっているかです。

そのために必要なのは、売上高を1行で書かないことです。

創業計画書の様式をよく見ると、「取扱商品・サービス」の欄に客単価・営業日数・営業時間・受注(販売)単価を書かせる欄があります。「事業の見通し」の右側には「売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算された根拠をご記入ください」という欄が用意されています。様式そのものが、売上を分解させる作りになっています。

つまり、こう書くということです。

  • 悪い例: 月商300万円
  • よい例: 客単価5,000円 × 1日20人 × 月25日営業 = 250万円。加えて法人向けの月額契約が10社 × 5万円 = 50万円

分解しておくと、実績が240万円だったときに「客数が15人だった」のか「単価が下がった」のかが分かります。そこが分かれば次の手も打てますし、金融機関にも説明できます。1行で書いてあると、「未達でした」以上のことが言えません。

そしてもうひとつ。分解した数字は、自分の経歴とつながっている必要があります。公庫の調査では、開業者の81.1%が斯業経験——いまの事業に関連する仕事の経験——を持っていて、その平均年数は15.3年です。創業計画書の2番目の項目が「経営者の略歴等」で、しかも「勤務先名だけではなく、担当業務や役職、身につけた技能等についても記載してください」と指示されているのは、そのためです。

前職で担当していた顧客が何社で、平均単価がいくらだったか。そのうち何割が引き継げると見ているのか。根拠が経歴の中にある数字は強く、どこにもない数字は弱い。見られているのは、そこです。

経費側で落ちやすい3つ

売上に気を取られて、経費側が甘くなるのはよくあることです。創業計画書の経費欄は「人件費・家賃・支払利息・その他」の4行しかなく、細かく分ける作りになっていません。そのぶん、落ちます。

1. 社長自身の役員報酬

様式の人件費欄には「(注)個人営業の場合、事業主分は含めません」と書かれています。裏を返せば、法人の場合は代表者の役員報酬を人件費に含めます。ここが空欄だと、利益が実態より大きく出ます。

いくらにするかは、それ自体が判断を要する話です。ひとり社長の役員報酬の決め方にまとめました。

2. 社会保険料の会社負担分

役員報酬を決めると、会社負担分の社会保険料が発生します。報酬額のおよそ15%です。「その他」に埋もれやすく、抜けたまま計画が出てくることがあります。

3. 税金と、元本の返済

借入の返済のうち、経費になるのは利息だけです。元本の返済は経費になりません。利益が出ていても、そこから税金を払って元本を返すと手元に残らない、ということが起こります。

ですから、借りる額は「借りられる額」ではなく「返せる額」から考えます。ざっくり言えば、税引後の利益に減価償却費を足したものが、年間の返済に充てられる上限です。据置期間を使えば当初の負担は軽くできますが、その間、元本は減りません。

2期目からは、決算書が資料になる

創業融資は計画の数字で判断されます。ただ、それは最初の1回だけです。

事業年度がひとつ終われば決算書ができます。運転資金の追加、設備投資、2回目の融資。そのときに見られるのは計画ではなく実績で、創業時に出した計画と、できあがった決算書の距離も見られます。

だから創業期の会計は、税務署に出すためだけのものではありません。次に数字を見せるときの材料そのものです。勘定科目の付け方が毎月ぶれていたり、事業とプライベートが混ざったままだったりすると、説明の場面で困ります。この話は入力でつまずきやすい場面にまとめました。

制度の側もそこを見ています。公庫の特別利率には、中小企業の会計に関する指針や基本要領を適用したうえで、自ら事業計画書を作り、認定経営革新等支援機関の指導を受けている方、という区分があります。会計をきちんと立てることが、借入の条件に直接ひもづいているということです。

計画を作った人と、その後の帳簿を見る人が同じであるほど、この距離は縮まります。

まとめ

  • 創業融資は決算書がない段階の融資。実績の代わりに見られるのは、計画と、それを遂行できる裏づけ(経歴・自己資金)
  • 融資を受けて開業した人の調達額は平均1,219万円、うち借入827万円・自己資金279万円。限度額は目安ではない
  • 自己資金は制度上の要件ではないが、見られている。ポイントは金額より出どころ
  • 計画は当たらない(4割が予想月商に未達)。求められているのは的中率ではなく、ズレを説明できる分解
  • 経費側では役員報酬・社会保険料・元本返済が落ちやすい
  • 2期目からは決算書が資料になる。創業期の会計は、次に数字を見せるときの材料

数字の作り方の段階からご相談いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。

どこから頼むべきか、迷っていませんか

税理士法人ZENでは、初回30分のご相談を無料で承っています。「いま頼むべきかどうか」を整理するところからでも構いません。クラウド会計に精通した公認会計士・税理士が、全国どこからのご相談にも対応します。

無料で相談する